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横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)19号 判決 1992年7月29日

綾瀬市寺尾南二丁目三番三〇号

原告

柏木尹

右訴訟代理人弁護士

畑山穣

厚木市水引一丁目一〇番七号

被告

厚木税務署長 黒河内直彦

右指定代理人

齋藤隆

仲田光雄

小林英樹

添田稔

越智敏夫

桑久保誠

中村有希郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対して昭和六一年一一月二七日付けでした、昭和六〇年分所得税の更正(以下「本件更正」という。)のうち分離課税の長期譲渡所得金額を五、七八三万六、三〇〇円とした部分全部及び納付すべき税額一四〇万〇、三〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)は、これを取り消す。

第二事実の概要

本件は、原告が、綾瀬市寺尾南二丁目六一七番四及び同所同番五の土地合計四五五平方メートル(以下「本件資産」という。)を昭和六〇年六月八日付けで株式会社富士工務店に六、二二七万円で譲渡したこと(以下「本件譲渡」という。)による長期譲渡所得につき、所得税法六四条二項(以下「本件条項」という。)の規定が適用されるべきであると主張して、本件各処分の取消を求めた事案である。

一  本件課税処分の経緯等

原告の昭和六〇年分(以下「本件係争年分」という。)の所得税について、確定申告、更正、異議申立て等の経緯は、別表のとおりである。(争いがない。)

二  本件更正の根拠

1  総所得金額 一、〇九九万八、七五七円

原告が提出した昭和六〇年分の所得税の確定申告書(以下「確定申告書」という。)に記載された事業所得の金額、不動産所得の金額及び給与所得の金額の合計額である(争いがない。)。

2  長期譲渡所得金額 五、七八三万六、三〇〇円

(一) 収入金額 六、二二七円

(二) 必要経費 三四三万三、七〇〇円

(三) 特別控除額 一〇〇万円

分離課税の長期譲渡所得の金額は、右(一)の収入金額から右(二)の必要経費及び右(三)の租税特別措置法三一条四項に規定する長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円を控除したものである。(後記争点につき被告主張のとおりであるとすれば、この金額になることに争いはない。)

3  納付すべき税額 一、四七一万九、九〇〇円

右金額は、基礎控除等を差し引いた課税される総所得金額九三七万五、〇〇〇円に対する税額二二〇万九、七五〇円と、課税される分離長期譲渡所得金額五、七八三万六、〇〇〇に対する税額一、三三一万九、五五〇円の合計金額から、源泉徴収額八〇万九、三七〇円を差し引き、一〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。(後記争点につき被告主張のとおりであるとすれば、この金額になることに争いはない。)

三  争点

厚木信用組合が昭和五五年一〇月二七日付けで貸し付けた金額一億円の金銭消費貸借(以下「本件消費貸借」という。)につき、借主は天幸商事有限会社(昭和五六年五月一四日株式会社に組織変更、以下「天幸商事」という。)であって、原告は、その保証人にすぎず、当該保証債務を履行するために本件資産を譲渡したのであるから、その長期譲渡所得に本件条項が適用されるべきか(原告の主張)、右借主は原告であり、本件資産の譲渡は、原告自身の主たる債務を履行するためにされたものであるから、本件条項は適用されるべきではないか(被告の主張)が、本件の争点である。

この点に関する当事者双方の具体的な主張は次のとおりである。

(被告の主張)

本件条項は、資産の譲渡が保証債務を履行するためになされた場合に限って適用されるべきところ、本件譲渡は、保証債務の履行のためではなく、次のとおり、原告自身の主たる債務の履行のためになされたものである。

(一) 原告と厚木信用組合との間の昭和五五年一〇月二七日付け金銭消費貸借証書(乙二の一)の債務者の住所、氏名がいずれも原告の自筆であり、原告名下の印影は原告の実印により顕出されたものである(争いがない。)。したがって、原告は、当然主たる債務者であることを明確に認識して、右契約を締結しているものである。

(二) 本件債務の担保として厚木信用組合に差し入れられた原告所有の綾瀬市大上四丁目二一五番畑九九一平方メートル(乙二〇)について作成された根抵当権設定契約証書(乙三)の根抵当権設定者兼債務者の住所、氏名がすべて原告の自筆であり、また、原告名下の印影も原告の実印により顕出されたものである(争いがない。)。したがって、原告は、当然主たる債務者であることを明確に認識して、右根抵当権設定契約を締結しているものである。

(三) 原告が昭和五五年一〇月二一日付けで厚木信用組合に提出した融資申込書(乙四)の原告名下の印影は原告の実印により顕出されたものである(争いがない。)右融資申込書に記載されている融資金の使途が貸倉庫建築不足金、担保に差し入れた畑の開発造成費用とされているのは、名目上のものであって、このことは原告も承知していたものである。

(四) 原告が昭和五五年一〇月二七日付けで厚木信用組合に対し債務の履行に関して差し入れた信用組合取引約定書(乙六)に記載された原告の住所、氏名は原告の自筆であり、また、名下の印影も原告の実印により顕出されたものである(争いがない。)。したがって、原告は、主たる債務者であることを認識した上で、厚木信用組合に対し債務の履行を約したものである。

(五) 原告は、厚木信用組合から借り受けた一億円を天幸商事に転貸することにより、天幸商事から昭和五五年ないし同五八年の間に月額五〇万円、合計一、五八〇万円を謝礼名下に受領している(金員の受領は争いがない。)。右金員は転貸による貸付金利息に相当するものであり、原告はこれを十分認識して受領していたものである。

(被告の主張に対する原告の反論)

1 本件更正は、本件条項を適用していないが、これは形式論理にとらわれたものであり、原告は主債務者ではなく保証人にすぎず、天幸商事が主債務者である。理由は以下のとおりである。

(一) 原告と厚木信用組合との間の昭和五五年一〇月二七日付けの金額一億円の金銭消費貸借(乙二の一)の主債務者は、実質的には天幸商事である。

本件の場合、融資申込みの打診から融資決定に至るまでの全過程における総ての交渉は、厚木信用組合の黒沼仁代表理事及び江藤邦英審査管理部長が、天幸商事の代表取締役川越幸雄(以下「川越」という。)としてものであって、原告は全く関与していない。

(二) 融資の実行にあたって、一億円が振り込まれた原告名義の預金口座は、天幸商事の川越が原告名義の印鑑を作ってわざわざ開設したものであり、厚木信用組合は、川越が持参した印鑑を取引印として登録し、通帳も同人に渡しているものである。

(三) 爾来、厚木信用組合は、天幸商事が原告名義の登録印鑑と通帳を使用して自由に融資金額の払戻しを受け、あるいは本件借入金の返済金を原告名義の預金口座に振り込んでこの通帳を介して弁済することを認めてきた(争いがない。)。

(四) また、厚木信用組合は、本件融資申込書の資金使途を倉庫建築等としている(争いがない。)のであるが、このような場合、金融機関は、融資金が所定の融資目的に使用され、現実に倉庫が建築されたことを確認し、これを追加担保として提供を受けるために、不動産登記簿謄本を債務者から徴するのが普通である。しかし、本件では、当然のことながら、倉庫など建つはずがないのであるから、厚木信用組合から原告に対し不動産登記簿謄本の提出や、追加担保を求められたこともない。

(五) 天幸商事は、昭和五八年一二月二〇日手形の不渡りを出し(争いがない。)、倒産したものであるが、この倒産の経過の中で、厚木信用組合は原告に対し、天幸商事がいよいよ倒産の危機に瀕する昭和五八年七、八月ころまで、返済の督促はもちろんのこと、弁済の遅滞について善後策を講じるよう交渉を申し入れたことも一切ない。

(六) 以上の諸事実は、原告が本件借入金の真正な主債務者であるとすれば、説明がつかないことであるが、天幸商事が主債務者であるとすれば、うまく説明がついてしまうものである。

2 原告と天幸商事との関係及び本件消費貸借の経緯等

(一) 原告は農業を営む者であり、天幸商事は厚木市に本店を有して土木建築、貸倉庫業等を営む会社である。厚木信用組合は厚木市に本店を有し、綾瀬市等に支店を置き、組合員に対し資金の貸付等金融業務を営む信用組合である(争いがない。)。

天幸商事は、株式会社天幸倉庫(以下「天幸倉庫」という。)等と所謂天幸グループを形成し、天幸倉庫は、厚木市等の農家に倉庫の建築を勧め、賃料を支払ってこれを借り受け、倉庫業を営む一方、天幸商事は、天幸倉庫が農家から借り受ける予定の倉庫の建築設計、施工を行うというように役割を分担しており、役員も相互に兼ねていた。(争いがない。)。

このようにして、原告もその所有地に天幸商事の建築設計、施工による倉庫を建て、天幸倉庫にこれを賃貸していた。

(二) 天幸商事は、昭和五四年ころから、積極的な事業の展開を計ったが、杜撰な経営方針だったため、多額の赤字となり、会社運営のために膨大な資金を必要とするようになった。

そこで、天幸商事代表取締役川越幸雄は、営業の関係上知り合った農家に担保提供及び保証人となることを求め、厚木信用組合等金融機関から融資を得ようとした(争いがない。)。

(三) 川越は、昭和五五年一〇月、原告に対して、厚木信用組合から一億円の資金を借り入れるに当たり物上保証兼連帯保証を依頼し、原告の承諾を得たが、天幸商事が既に厚木信用組合から多額の借入れを起こしていることから、これ以上の信用供与を受けることは無理であったので、厚木信用組合の黒沼仁専務理事と江藤審査管理部長と相談して、形式上原告を主債務者として厚木信用組合と金銭消費貸借を締結することとし、昭和五五年一〇月二七日金額一億円の金銭消費貸借を締結したものである。その後の経緯は1で述べたとおりである。

第三争点に対する判断

一  本件消費貸借締結の経緯

1  厚木信用組合は厚木市に本店を、綾瀬市等に支店を置き、貸付等を行っている。原告は、酪農業を営む傍ら、地元の酪農組合長及び畜産協会長、昭和五八年四月以降は、綾瀬市の市議会議員を務めている者である(争いのない事実、原告本人)。

原告は、本件消費貸借以前から、厚木信用組合綾瀬支店と取引があり、同支店に普通預金口座を有していたほか、綾瀬市農業共同組合とも取引があり、昭和五四年には、天幸倉庫に賃貸する事務所の建築費用として一、二四〇万円を自ら借主となって借り受け、更に昭和五五年には、天幸倉庫に賃貸する倉庫の建築費用として長男が同農協から八、〇〇〇万円を借り受けるに際して、連帯保証人となったことがあり、その後、本件消費貸借契約をしたものである(乙一五、原告本人)。

2  天幸商事は、昭和五五年当時、事業の拡張を図るため多額の資金集めをしており、営業上知り合った農家に担保提供者になるよう働きかけ、その所有する不動産に担保権を設定して厚木信用組合等から融資を受け、この資金集めに協力した者に対しては、担保提供料の名目で月額三〇万円ないし五〇万円の謝礼を支払っていた(争いのない事実、乙一〇、一一、証人黒沼)。

昭和五五年五、六月ころ、天幸倉庫の専務取締役小山三男(以下「小山」という。)は、天幸商事の代表取締役川越に対し原告を担保提供者として紹介し、同人から担保提供の了承を得た(争いがない。)。原告は、元利金を自ら返済するわけではなく、月々謝礼を受領し、また、天幸商事と取引することにより、天幸グループとの取引者が多い地元での知名度を高める等の点で十分メリットはあった(乙一一)。

そこで、同年一〇月中旬、天幸商事の総務部長小塚秀夫(以下「小塚」という。)は、厚木信用組合の専務理事黒沼仁に(以下「黒沼」という。)に対し、原告が担保を提供するので天幸商事に一億円を融資するよう申し入れた。これに対し、黒沼は、天幸商事は二億円の融資限度額に達しているので、天幸商事に更に融資することはできないことを伝え、この申し入れを一旦断った。その後、その代替策として、青木敏行が借主として融資を受け、これを天幸商事が利用している事例があるので、これと同様の方式で原告に融資してその金員を天幸商事が利用することではどうかという話が出て、天幸商事の代表者川越と原告が話し合った結果、原告は、厚木信用組合から一億円を借り受け、これを天幸商事に使用させることを了承した。そこで、原告は、同月二一日、天幸商事の小塚及び連帯保証人青木敏行とともに、厚木信用組合本店に行き、黒沼と話し合った。このとき、原告及び黒沼ら関係者の間で、厚木信用組合の天幸商事に対する貸付は既に貸付限度額を超えているので、厚木信用組合が原告に一億円を貸し付け、この融資金を天幸商事が使用すること、融資金の受領及びその元利金の返済は、天幸商事が直接厚木信用組合との間で行うこと、貸付金を入金するなどのため同信用組合本店に原告名義の普通預金口座を開設すること等が取り決められたが、融資申込書に使途として、転貸資金と記載した場合には、稟議において問題となることから、貸倉庫二棟の建築不足金及び原告所有の綾瀬市大上四丁目二一五番所在の畑の開発造成費用と記載することとした。その融資申込書(乙四)には、小塚が原告の承諾を得てその住所氏名を代筆し、原告がその名下に実印を押捺し(乙一五)、また、その余の欄は、黒沼が右取決めに沿った記載をしてこれを作成した(乙四、一〇、一一、一五、証人黒沼、原告本人)。この認定に反する原告本人尋問の結果は、不自然であり採用できない。

3  その後、小塚は、一億円の融資を受けるために必要な金銭消費貸借証書(乙二の一)、根抵当権設定契約証書(乙三)及び信用組合取引約定書(乙六)を原告宅に持参し、原告に本人ないし債務者の欄に署名捺印をしてもらい、原告が同月二二日に発行を受けた印鑑証明書(乙二の二)とともに厚木信用組合に提出し、同信用組合の稟議においても承認されたことから、原告に対する一億円の貸付けが実行されることとなり、同月二七日、同信用組合本店に新規に開設された原告名義の普通預金口座に融資金一億円から利息の天引分一〇〇万六、八四九円及び印紙代三万二、二〇〇円を控除した残額九、八九六万〇、九五一円が一旦入金され、次いで、その普通預金口座から二、〇〇〇万円が払い出されて、一、〇〇〇万円の原告名義の定期預金が二口設定され(うち一口がいわゆる拘束預金とされた。)また、五万円が払い出されて、原告の同信用組合に対する出資金が支払われ、更に、残余の七、八九一万〇、九五一円が払い出されて、天幸商事名義の当座預金口座に振替入金され、同日原告所有の綾瀬市大上四丁目二一五番畑九九一平方メートル(乙二〇)につき、原告を債務者、厚木信用組合を根抵当権者として極度額一億円、順位一番の根抵当権が設定された(前掲証拠の他、甲三、乙五、一〇、一一、一二、一五、二二、原告本人)。

4  原告は、その後、天幸商事との約束に基づき、同社に元利金を直接厚木信用組合に返済してもらったほか、毎月定額(おおむね一か月五〇万円)の謝礼を受領し、その額は、昭和五五年中が一〇〇万円、昭和五六年及び昭和五七年中が各六〇〇万円、昭和五八年中が二八〇万円、合計一、五八〇万円に上った(争いがない。)。

天幸商事は、昭和五五年一〇月以降、厚木信用組合に原告名義で元利金(ただし、昭和五六年三月までは利息のみ)を返済していたが、昭和五八年二月分から遅滞するようになり、同年一二月二〇日には不渡手形を出して事実上倒産し、以後、右元利金の返済を全くしなくなった(乙一二、一三、一七)。

5  厚木信用組合の審査管理部長江藤邦英は、天幸商事が倒産した後、貸金債権の回収を図るために原告と交渉したが、原告は、主債務者ではないとか物上保証人兼連帯保証人にすぎないというようなことは述べていない(証人江藤)。

6  その後、原告は、昭和六一年二月二四日、申立人を原告、相手方を天幸商事、利害関係人を厚木信用組合として、厚木簡易裁判所に即決和解の申立てをし、同年四月二五日、原告と天幸商事との間で、本件消費貸借契約の真正の債務者が天幸商事であることを確認し、原告は天幸商事に対し物上保証人兼連帯保証人としての義務を履行したことによる求償債務を免除すること、原告は厚木信用組合に対し、本件消費貸借に基づく一、〇〇〇万円の残債務を同年五月三〇日限り支払う旨約すること等を内容とする和解が成立した。更に、厚木信用組合に依頼して、その審査管理部長の江藤邦英名義で、天幸商事が真の債務者であることを証明する旨記載された昭和六一年一一月二〇日付けの「融資金の証明書」を作成交付してもらうなどした(甲一、二の一、二、証人江藤、原告本人)。

二  以上認定したとおり、原告は酪農組合長をしたり、本件消費貸借後ではあるが市議会議員も努めるなどしていることからすれば、社会的な常識は十分あるものということができる。そして、これまでにも厚木信用組合と取引があり、長男が農協から借入をするに際し連帯保証人となったこともあり、本件消費貸借締結に際しては、黒沼らから融資限度額の関係で原告が借主になるとの説明を受けて納得した上で、原告を債務者とする融資申込書(乙四)、金銭消費貸借証書(乙二の一)、根抵当権設定契約証書(乙三)及び信用組合取引約定書(乙六)を作成していること、原告は、その後、天幸商事との約束に基づき、毎月定額(おおむね一か月五〇万円)の謝礼を受領し、その額は、合計一、五八〇万円になることなど前記認定の諸事実によれば、本件消費貸借においては、原告が自己の危険と計算のもとに債務者として本件融資を受け、これを天幸商事にそのまま貸し付けたものというべきである。

前記一6で認定した、厚木簡易裁判所での即決和解において真正の債務者が天幸商事であることを確認したこと(甲二の一)、厚木信用組合の融資金の証明書(甲一)を発行したことについては、証人江藤の証言によれば、前者については債権の回収を早くしようと考えてしたものであること、後者については確たる考えもなしに依頼に応じたものと認められるのであるから、これらをもってしても前記認定を覆すには足りない。

また、原告は、金銭消費貸借証書(乙二の一)、根抵当権設定契約証書(乙三)及び信用組合取引約定書(乙六)の債務者ないし本人の欄に署名・押印したが、債務者という字が目に入らなかった、その点は深く考えなかった等供述しているが、いずれも前記認定の諸事実及び原告の経歴等に照らして不自然であり、信用できない。

三  以上のとおり、本件消費貸借の主たる債務者は原告であるということができるから、この債務を履行するために譲渡した本件資産の長期譲渡所得につき、所得税法六四条二項の保証債務の特例規定を適用すべき余地はないものというべきである。

第四本件更正の適法性について

本件係争年分の更正処分に係る総所得金額、長期譲渡所得金額及び納付すべき税額は、別表記載のとおりであり、いずれも前記第二、二で述べた原告の昭和六〇年分総所得金額、長期譲渡所得金額及び納付すべき税額と一致するから、本件更正は適法である。

第五本件賦課決定の適法性について

原告は、本件係争年分に係る納付すべき税額を過少に申告していたので、被告は、国税通則法六五条一項、二項(昭和六二年法律第九六号による改正前)の規定に基づき、本件更正により納付すべき税額に一定の割合を乗じて算出した金額の過少申告加算税を賦課決定したものであって、同決定は適法である。

(裁判長裁判官 佐久間重吉 裁判官 辻次郎 裁判官 丸地明子)

別表

〈省略〉

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